手術を勧められた重症の顔面神経麻痺の鍼灸治療
重症な顔面神経麻痺にも鍼灸治療
顔面神経麻痺はその麻痺の程度により、早期に手術(顔面神経麻痺減荷術)を受けた方がいい場合があります。手術をすることで顔面神経の再生を助けることができるからです。
ただ、手術を受けることへの不安があり、手術を受けることに悩む方も多いようです。
症例
今回、顔面神経麻痺の鍼灸治療を受けに来られた方もその一人です。
手術を勧められたが、どうにか鍼灸治療で改善できないかということで週1回の治療を9ヶ月行い、顔面神経麻痺が回復しました。
男性 60代 福岡県在住
・1月4日に顔面神経麻痺発症
・翌日からステロイド治療開始
・発症1ヶ月以内に手術を勧められるが断る
・発症2週間後(1月19日)から鍼灸治療開始
・おおよそ週1回の治療を9ヶ月間
・手術せずに顔面神経麻痺が回復する
顔面神経麻痺治療の経過
この患者様から顔面神経麻痺の程度や病院での治療、当院での鍼灸治療など、詳細に書いていただきましたのでご紹介いたします。
1、症状の種類
末梢性:ヘルペスウイルスに神経が犯された。右顔面に発症(ベル麻痺)。
脳血管性:脳内の毛細血管切れによる脳血管障害ではない。 MRI検査で判明。
2、発症時期
1月4日:朝の歯磨きの時に少し目(瞼)の腫れ。気になるほどではなかった。
1月6日:夜8時頃、歯磨きの時に目(瞼)の腫れが大きい。
眉毛と瞼は垂れ下がり右顔半分がノッペリに大変驚いた。
まるで幽霊のお岩さんのようだ。
娘の友人(看護士)から顔面神経麻痺で早急に病院へ行くように注意あり。
1月7日:自宅近くの脳神経外科へ診察予約の電話を入れたところ受け入れ不可。
総合病院の方へ。10時過ぎ、近くの大学病院耳鼻咽喉科へ。
医師の診察:「顔面神経麻痺で大変な重症だ。即入院し、一刻も早く点滴を始めよ。」
顔面の動き(反応)電流検査:40点満点の4点で超重症と診断
3、発症時の症状
①発症から3日で、瞼も腫れ眉毛とともに大きく垂れ下がり目に被さった。
目は細く開き閉じることもできず乾燥を防ぐため涙が出っぱなし。
視力もかなり低下し、右目が疲れた。
②ロが左に大きく曲がり(引っ張られ)上唇と下唇に隙間(最大部5㎜、長さ25㎜)
があり飲み物をこぼす。ストローでも上手に飲めない状態。
唇に隙間が出来、口も曲がり言葉が抜けた感じではっきりした言葉にならない。
③健常な左方向に引っ張られて口が大きく開かず顎までネジレている感じがある。
4、病院での治療(入院16日間)
①ヘルペスウイルスの増殖を防ぐためプレドニン点滴3時間の5日間
末梢神経回復に効果ありのビタミンB12も服用
プレドニン錠剤とビタミンB12を1月間服用
②入院8日目:2回目の顔面の動き(反応)検査、40点満点の7点で要注意
手による顔面神経麻痺のマッサージの指導を受ける
③入院12日目:3回目の顔面の動き(反応)検査、40点満点の9点で要注意。
はっきりとしたまばたきの動きあり、目はまだ完全に閉じない
④入院13日目:主治医から「顔面回復が悪い。(11%は必要だ)」
発症から1月以内に手術が必要と勧められた
⑤入院14日目:主治医から「顔面回復の兆しが良くないので、やはり手術が望ましい」
手術は発症から1月以内のタイミングしかない。決断を迫られる。
耳の後ろを開き骨を削って末梢神経を通りやすくする。
手術で必ず良くなるとは限らない。少し難聴になる。
⑥入院16日日:退院。発症28日目の○日に手術を予定していることの通告あり。
⑦発症から20日目: 手術を断った。
5、鍼灸治療の開始(週1回、ツボと経絡に針、手の合谷に灸)
①発症から28日目:第1回目治療開始(入院中に手術を断り鍼灸治療を決意)
鍼:顔面14本、首筋2本、手2本、手首2本、膝下2本
灸:手2点
②81日目(約3ヶ月):大学病院の定期検診
主治医:手術を強く勧めたが、必要なくなっていると驚いた。
西洋医学は手術、東洋医学はツボの刺激で自力治癒力を高める
鍼灸治療に通っていることは話さなかった。
③100日目 :上唇と舌唇がほぼ完全に重なった。口の曲がりもなし。
左目だけをつぶることが出来るようになった。
④111日目(約4ヶ月):左眉毛尻の下がりを箱嶌先生に指摘
入院以来朝・昼・夜の3回高温蒸しタオルで顔面に当て、
末梢神経の回復マッサージをおこなっている。
目が左目相当に開く。
⑤209日目(約7ヶ月):左瞼の下がりを先生に指摘
⑥266日目(約9ヶ月):予想以上の回復により一応鍼灸治療を終了する。
朝・昼・夜の3回蒸しタオル当てマッサージは継続する。
6、手術の判断
顔面や耳の手術は恐ろしい。かなり強く手術を勧められたが、断ってよかった。
鍼灸治療も怖いというイメージがあり躊躇したが、鍼灸治療にすがる思いであった。
7、東洋(鍼灸)医学への関心
西洋医学は手術を基本に患部を治療するし、薬で症状を抑えるのに効いている。
一方、東洋医学は患部のツボを刺激し、血の流れを促す経絡などにより
自力治癒力を高めるものだ。 鍼灸治療を通じて東洋医学のよさを知った。
当院から
この患者様はとても根気強く当院の鍼灸治療を受けに来ていただきました。
そして、このような記録を残していただいたことに大変感謝いたします。
早期の手術を勧められた顔面神経麻痺でしたが、患者さん自身が行った顔面部のマッサージと週1回の鍼灸治療にて手術を受けずに顔面神経麻痺から回復されました。
手術が必要なくらい重症な顔面神経麻痺がすべてこのように回復するわけではありませんが、
どうしても手術を受けたくない場合は、鍼灸治療という方法もあることを知っていただければと思います。
また、西洋医学(投薬・手術)と併用して鍼灸治療を行うことで相乗効果が見込めます。